田舎のM町に住む友人が、ぼやいた。Cについてだ。
Cというのは、私と高校の野球部で一緒だった男で、野球はそんなに上手では
なかったが、いつでもどこでもニコニコのひょうきん者だ。
Cは、高校を卒業すると都会の会社に就職した。その彼、里心がついたのか、
5月の連休を利用してH町に帰って来た。友人とは、その時にバッタリと出遭い、
二人はしばらく立ち話になった。
「これってどう?」Cが、まだ板につかない標準語で訊いてきた。
「何がよ?」と友人。
「この洋服だ。俺って垢ぬけた?」東京で買った、派手な服が自慢らしい。
「うん、まぁー・・・」
人柄はいいのだが、昔から何を着ても似合わないC。しかし、自信満々の彼に、
面と向かってチンドン屋みたいだとは言いにくい。友人は話題を変えた。
「ところで、どこに住んでいるの?」
「俺か?俺は、横浜だべジャン!」
「・・・」
友人は、ひっくり返りそうになった。それでもCは気にしない。というか、
自分が何を言っているのかさえ気付かない。だから、しゃべるたびに大真面目で
「そうだべジャン」を連発する。
そもそも、Cが田舎を出たのは4月で、横浜で暮らしたのは、わずかに1カ月。
初給料で買ったらしいが、派手な服を着たからといって、根っからの田舎者が、
急に垢ぬけた都会人になれるわけがないのだ。
後になって、その話を聞いた我々は、あいつらしいと腹を抱えて大笑い。
そして、偽都会人だとか、にわか横浜だとか・・・言いたい放題。
しかし、よく考えてみれば、笑っている我々も、彼と似たりよったりの田舎者だ。
田舎の噂は足が速い。だから、その話は、またたく間に近郷近在まで伝わった。
「Country Gentleman」
チェット・アトキンス1953年の作品。
おしゃれな田舎紳士が、向こうからテクテク歩いてくる。
この曲を聴くたび、そんな気がします。
2013.12.23