だいぶ前のことだ。ある日、パッツィーがウォーキングをしていると、左前方で
けたたましい鳥の鳴き声がした。立ち止り、何事だろうと見ると、畑の中で
雉(きじ)が羽を広げ、声を張り上げ鳴いている。
周辺には林が多く、以前にも、何度か雉の飛ぶ姿を目撃したことがある。ところが、
その日の雉は、飛び立とうともせず、彼女を威嚇するように鳴き続けている。
変だ?そう思った時、背後に何かを感じて振り返った。
すると、雉の子供三羽が、ヨチヨチと道路を横切って歩いている。
そして、それを守るように、母親の雉が、子供たちに寄り添い誘導する。
パッツィーは瞬時に理解した。ああそうなのか、大きな声で鳴いているのは、
この子たちの父親だ。
遮蔽物のない冬枯れの畑、その真ん中で、わざと目立つように羽を広げ、鳴き声を
上げ続けて、彼女の注意を自分に惹きつけている。子供たちと母親を、無事に道路を
横断させようとしているのに違いない。
「それでどうした?」私が訊いた。
「雉が道路を渡って行くのを見ながら、私は、後ろ向きで歩いて・・・」
まもなく、子供と母親は無事に林の中に消え、気が付いた時には、父親の雉の姿も
消えていたという。
≪雉も鳴かずば撃たれまい≫ということわざがある。余計なこと言ったために、
自ら災いを招くというたとえだ。
私は思った。はたして、撃たれたすべての雉は、自分の身が危険に晒されることを
知らないで、意味もなく鳴いたのだろうか?
少なくとも、パッツィーに向かって、けたたましく鳴いた雉は、そうではない。
あの雉は、自らが犠牲になって、自分の子供を守るために鳴いた。
「Pick Me Up On Your Way Down」
ハーレン・ハワードの作。
チャーリー・ウォーカー1958年のヒット曲。
ポーター・ワゴナーのアルバム「Y'All Came」の中に。
2014.1.20