左目がゴゴロするので眼科へ行った。ドアを開けてビックリ。オープン直後
なのに待合室は満員。これでは無理。ドアを閉めて帰ろうと思ったが、
さりとて、この近くには別の眼科がない。仕方なく待つことにした。
雑誌か新聞でもと待合室を見渡すが、どこにも無い。そうか、ここは目が悪い
人が来るところ。それで置いてないのかと納得したが、壁にテレビとはどうい
うことだと、思わず八つ当たり。
テレビの音が異常に小さい。耳を澄ませて「ペン習字講座」というのを観てい
たが、これが全然おもしろくない。そこで患者さんたちを「人間ウォッチング」
テレビよりこっちのほうがおもしろい。
目の前にいるご婦人が、自分の顔の周りに飛んできた蚊を潰そうとしていた。
のけぞったり、首を曲げたりしながらチャンスを待つ。そして、じっくりと
狙い定めたところで両手を思い切りパチリ! ところが遅い。タイミングが
悪くて空振り。手の音だけが静かな診察室に大きく響き、みんなが注目。
ご婦人は決まりが悪そうだった
2時間近く待っても順番が来ない。我慢できなくなって、受付にあと何人待て
ばいいの?と訊いた。すると「2人待ち」の返事。それくらいならと席に戻る。
それを見ていたのだろう。子連れの主婦も、受付で私と同じ質問をしていた。
精神修行のような時間が過ぎて、ようやく自分の名前を呼ばれた時の嬉しさは
格別だ。大きな声でハイ!と応えて、薄暗い診察室に入る。
椅子に座ると「どうしました?」と医師が訊く。
「左目がゴロゴロします」
「いつから症状が出ましたか?」
「一ヶ月前ぐらいからです」
「医者はなんて言っていましたか?」
「?!」
この医者、いったい何を言っているのだろう。医者に診て欲しいからここに来た
のだ。何と答えていいのかわからず黙っていると、医者が怪訝そうな顔でもう
一度訊いてきた。
「医者に診てもらってないのですか?」
「ないです。ないです。ぜんぜんないです」
医者は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに納得したようにうなずいた。
そこで何となくわかった。この医者は、私が症状が出てから一ヶ月と間があるの
で、別の眼科に行って治療を受け、回り回ってここに来たと思っているようだ。
昨今「眼科巡り」をする患者が多いのかもしれない。それにしても、初診の患者
にいきなり「医者は何て言っていたの?」は、どう考えても会話として変だ。
それでも診察は丁寧だった。診断結果は「持って生まれたドライアイ体質。そこ
に風でホコリが入り、ゴシゴシと擦ったので眼球に傷がつき、それが原因で炎症
を起こしている」というもの。
車で迎えに来たパッツィーにどうだったと訊かれた。
「ドライアイが原因。パソコンとかの影響じゃないらしい」
「それじゃ何が?」
「先生が言うには、生まれつき涙の出ない体質らしい」
「血も涙もない人」
「・・・」
「やっばり血も涙もない。アハハハ・・・・・・」
運転をしながら、彼女はいつまでも笑い続けていた。
「My Old Kentucky Home」
ジョニー・キャッシュ1975年の作品。
オズボーン・ブラザースやスリー・ドッグ・ナイトも
取りあげています。
2015.6.15
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