西伊豆町の事故。電気柵で男女7人が相次いで感電、2人が死亡し5人
が重軽傷を負った。シカよけの柵には電圧を上げる「昇圧器」が取り
付けられ、川の中には、自力で脱出できないほどの強い電流が流れて
いたという。
こんな経験がある。小学生の時、夏休みの楽しみといえば釣り。雨が降
らない限り、自転車を漕いでS川へ毎日通った。大きな川ではないが、
所々に深場もあって小学生には楽しめる手ごろな釣り場だった。
普段は、阿武隈川への合流付近から中流域のポイントに入り、オイカワ
(やまべ)という小型魚を狙うが、毎日ともなるとさすがに飽きがくる。
そこで、その日は、新しいポイントを開拓しようと上流域まで足を延ば
してみた。
細い川が流れ込むワンドがあった。そこは水深もあって流れも穏やか、
ウキ釣りには絶好のポイントだ。到着した時には、同い年くらいの先客が
一人いた。はやる気持ちで釣り支度、彼に負けじと竿を振った。
少しするとオイカワが釣れだした。思った通り、このポイントには魚が集
まっているようだ。ひょっとすると、久しぶりにハヤの顔も拝めるかもし
れない。そんな皮算用をしている時、上の土手道にトラックが停まった。
トラックから降りた男二人は、私たちの方を見ているようだが、普通の釣
り見物とは何となく雰囲気が違う。しばらくすると、一人が土手を下りて
きて、私たちに「危ないから、しばらく釣りをやめろ」と言った。
釣りを止めたくなかったが、言うとおりにしろと凄まれ、仕方なく仕掛け
を河原にあげた。すると、土手の一人が、トラックの荷台を足場に電柱を
登っていく。てっぺんにたどり着くと、腰の袋から工具を取り出し、電線
に針金のようなものを巻き付けた。
作業はあっという間に終わったが、電柱男はそのまましがみついたまま。
もう一人が、長い棒を持って土手を降りてきた。棒の先端には針金のよう
なものが巻き付けられ、その先は電柱まで伸びている。
棒男は電柱男に合図を送ると、いきなり棒を水中に差しこんだ。すると
その瞬間、白い腹を見せた魚が水面に一斉に浮いてきた。小学生の私にも、
それが電気ショックのせいだとわかった。凄い光景だった。魚が浮いたこと
を確認した棒男は、棒を水の中から引き揚げた。
その後、魚泥棒の二人は、浅瀬に流れてくる魚を玉網で掬い続ける。
どれぐらい捕ったのだろう。百匹はくだらないだろう。掬いきれず流されて
いった魚もかなりいた。浮いている魚がなくなると彼らは帰って行った。
あの時、棒男が川の中に電気を流したのはほんの一瞬。それでも、ワンドに
いた魚が全滅するほどの凄い威力だった。西伊豆の事故は、その4倍の電気が
川の中に流れっぱなしだったという。
「Getting Used to Losing You」
バック・オーエンス。
1964年の名作アルバム「Together/My Heart Skips a Beet」に
収録されています。
2015.7.25