高校時代、私たち野球部員はボールを大切に使った。投球練習用だけは真っ白なボールを下ろしたが、それが茶色になるまで何十日も使い込んだ。それ以外に新品を使った記憶がない。何の練習でも古いボール。特に打撃練習には、一番痛んでいるボールを使った。
ボールは、雨に濡れたり田んぼに入ったりすると、乾いてからは皮と芯の間に隙間ができる。つまりブカブカ状態。そんなボールでもフリー打撃練習では使った。だからバットの真芯に当たると、空中分解したり、「シュルシュル」という変な打球音を残し、途中で軌道が変化することもあった。
そこまでして使ったのは、牛革製の硬球は高価だったからだ。当時、どこの高校野球部でもそうだったと思うが、特に予算の乏しい我ら県立高校の野球部では、誰がどこから見ても「これはもうダメ」となるまで、何度も補修しながらトコトン使い切った。
入部してすぐに命じられたのも、ボールの補修だった。練習後、新人には先輩から縫い目がほどけたボールと、大きな針と専用の赤い糸が配られる。縫い方を教わると、一人ひとりにボロボロのボールが手渡され、「それを翌日までに縫ってこい」だった。
並んで待っていると、一人につき3個ずつボールが配られていた。「それくらいなら」と思っていたら、私にだけはボールが10個だった。「どうして俺だけが?」と文句を言うと、「お前は特別だ。黙って縫ってこい!」と怒鳴られた。生意気だったからだと思う。
仕方なくボールを持って帰ったが、慣れない練習で体はクタクタ。夕食を済ませるとすぐに眠くなる。それでも、やらなければならないボールの補修。3個を終えたところで急に腹が立ってきた。残りは放り出したかったが、野球は続けたいので思いとどまって・・・
そんな経験をしたからか、プロ野球の試合で、ボール交換が頻繁に行われることが気になる。特に近年それが顕著になっているような気もする。汚れが付いた場合は仕方がないが、そうとは思えないときでも、キャッチャーはボールの交換を要求し、審判はそれに応える。
今、プロの球団では、1試合に約120球の新品ボールを使うという。公認球1球の値段が2,600円なので1試合では約30万円かかり、年間にすると2100万円になる。プロは、公式試合以外でも練習でニューボールを使うので、その数を加えると、球団1年間のボール代は4千万円とも5千万円とも言われている。
野球が世界的に広がらない理由の一つには、このボール代も含めて費用が掛かり過ぎることがあると思う。かといって、ボールの素材を合成皮革にするわけにはいかないし。アメリカ生まれのこの野球、今更ながら贅沢なスポーツだと思う。ただ、面白いスポーツであることは間違いない。
「Cold Cold Heart」
ハンクの傑作。1951年にNo.1ヒットになりました。
ここではレイ・プライスの唄で。
私も、このバージョンで唄っています。
2017.5.5