20代後半のある夏、仕事がらみで草野球の助っ人に駆り出された。
ナイターということなので、私は仕事を終えると急いで某区民球場に駆け付け、
取引先の人から、チームの監督を紹介された。
ところが、その監督というのが、野球のユニホームこそ身につけてはいるが
何だか怖い感じ。後からチームメイトにそっと聞いてわかったのだが、その監督の
職業はテキヤさんだった。
私は、監督から手渡されたユニホームに着替え、キャッチボールをやり始めた。
その時、相手チームの選手たちがゾロゾロとグラウンドに入ってきた。
さりげなく観察すると、相手選手たちは精悍な顔つきをしているし、そして、
体格も我がチームより数段いい。
しばらくすると、我がチームの監督が、相手チームのベンチに歩いて行く。
試合前の挨拶だろう。だが、様子が少し変だ?我がテキヤ監督が、ベンチに
どっかりと座った相手監督らしき男に、ペコペコ頭を下げている。
ひょっとしたら、相手も監督の同業者のような人たちか?・・・
完全に陽が沈み、緑の芝生に夜間照明が映える。やっぱりナイターはいいもんだ。
そして試合が始まった。だが、相手チームはどこか変だ。
草野球のチームにしては、全員の動きがいいし、それに大きな声も出ている。
さらにベンチからの指示には、背筋をまっすぐに伸ばして「ハイ!」応える。
それも外野の守備位置からでも・・・やっぱり変だ?
私は、恐る恐る我がチーム監督に訊いてみた。
「彼らは、どういう人たちですか?」
「おう!相手は○○警察署のチームだ」
「それじゃ、あの監督は?」
「おう!もちろん警察署長だ」
助っ人として少しはチームに貢献したのだが、試合には負けた。
私はユニホームを脱ぎ、それを取引先の人に渡して、そっと帰ろうとした。
だが、テキヤ監督に呼び止められた。
「おう!君、ユニホームを持って帰れ」
「・・・」
「おう!君、なかなかいいよ。次も頼むよ!」
「・・・」
その時、私は上手く断れなかった。だからユニホームを自宅に持って帰った。
その結果、その後も試合に駆り出されることになった。
「The Prisoner's Song」
ダルハートという歌手が1925年に唄った囚人の歌。
その古い歌を、ハンク・スノウが丁寧に唄っています。
2012.9.3