ブルーマウンテンという品種のコーヒーがある。産地はジャマイカ島だが、
そこで採れる豆のすべてがブルーマウンテンというわけではない。
島の平地で収穫されるのが「ジャマイカ」で、ブルーマウンテン山の低い
ところで収穫されるのが「ハイマウンテン」と称される。
そして、そこから次第に高地になるにつれ、やっと「ブルーマウンテン」と
いう品種になるのだが、収穫される高度によって等級の違いがある。
つまり、No.3とか、No.2とかの区別である。だから、「ブルーマウンテンNo.1」
というのは、山のてっぺんで産出される最高品質のコーヒーなのだ。
てっぺんの面積は狭い。だから産出される量は当然少ない。だが美味い。
そのため高価であり、例えば英国王室とかという、ごく限られたところにしか
出荷されず、一般ではなかなか手に入らないものだ。
ということは?時折、町中の喫茶店で「ブルーマウンテンNo.1あります」のような
看板を見かけるが、それって?・・・。
コーヒー会社に入って間もない頃、見習い中の私は、先輩営業マンYさんのお供で
Nホテルに向かった。その夜、Nホテルでは、天皇陛下主催による、産油国の国王
歓迎レセプションが予定されている。
つまり、私たちがホテルに向かったのは、その席で供される、特別なコーヒーを
納入するためだ。それが、正真正銘の「ブルーマウンテンNo.1」のストレート。
会社が大切に保存していたものを、その日の分だけ特別に焙煎したのだ。
「これ以外に替わりはないから、絶対に落とすなよ」
「わかりました」
落とすなよ。会社を出てから、Yさんはこれを何度も繰り返す。
大丈夫、私はそんなにそそっかしくない。だが、何度も念を押されているうちに、
変に緊張してしまった。
四ツ谷駅で降りた。落としてはいけないと思うので、コーヒーの入った袋を、
お骨を抱くように両手で抱えて歩いた。
ところが、だ。ホテルが見えてきたところの石段で、私は石につまずいた。
それで、転びそうになり、私は我が身を守るため、持っていたものを手放した。
袋に入ったコーヒーは空中を飛んで、地上に落下した。
「バカ、何すんだ!」
Yさんは、あわててそれを拾い上げた。
「ああ良かった!破けていない」
Yさんの安堵の声だ。
もし、内袋が破けていたら・・・そう考えるとゾッとした。
ことが事だけに、安全性を考えて、ホテルは、けして受け取らないだろう。
かといって、今夜の「ブルーマウンテンNo.1」は、それ以外にはないのだから。
「もういい。俺が持つ」
そう言うと、そこから先は、Yさんがコーヒーを持って歩いた。
Yさんは無口になった。そして、私は黙って後をついていった。
こうして、少しずつ学生気分が抜けていく。
「Play Guitar Play」
コンウェイの自作、彼の唄で1977年にNo.1ヒットとなりました。
これは、チャーリー・プライドのカバーですが、こちらもいい感じです。
2013.4.28