小学校の五年生ぐらいになると、自転車で杉田川へ釣りに行った。
いつも釣る場所は中流域から下流にかけて。このあたりには民家もなく、
釣り人も少ないので、のんびりと遊べる。
ところが、ある日、ふと思い立って、いつもは行かない上流に出掛けた。
絶好のポイントで竿を出していると、後ろの方で大きな音がする。
振り返ると、土手道に何人かいて、そばに、私の自転車が倒れていた。
土手を駆けあがり、自転車を起こしていると、五人の男たちに取り囲まれた。
全員六年生ぐらいか?一番体の大きいのがボスらしい。その男が言った。
「よそ者はここに来るな。すぐに帰れ」
嫌だと答えると、ボスは、いきなり私の自転車を蹴飛ばした。
自転車は倒れながら土手を落ちる。私が、それに気をとられているその時、
ボスが突然殴りかかって来た。避ける暇はなかった。そして、そこからは、
五人にかわるがわる・・・私は土手を転がり落ちた。
アチコチがひどく痛む。生まれて初めて、本格的に殴られた日だった。
誰もいなくなった河原で、帰り支度をした。
ひっくり返された道具箱からは、新品の釣糸と釣針、それとオモリやウキ・・・
いろいろなものが無くなっていた。
幸い自転車は無事だったが、帰りの上り坂は押して歩いた。やっとのことで
自宅にたどり着き、すぐに医者に行った。
治療を受けて自宅の前に着くと、近所のSさんに声をかけられた。
「その顔どうした?」
唇は切れ、目には青あざ、顔中絆創膏だらけだった。私は、訊かれるままに、
中学生のSさんに事情を話した。
数日後、Sさんが何かを持ってきた。見ると、あの時盗まれた私の釣り道具だ。
それが、そっくり私のもとへ戻って来た。
「あそこに釣りに行ってもいいぞ」
「・・・」
「Aが話を付けてきた」
Aさんというのは、Sさんの同級生で、私も何度か遊んでもらったことがある。
Sさんが、そのAさんに私の出来事を説明すると、Aさんが猛烈に怒ったという。
ボスは、あの辺りでは有名な悪ガキらしい。
ボスの名前を知っていたAさんは、すぐにボスの家に行くと、彼を外に連れ出し、
散々懲らしめて、私の釣り具を回収した。それからは芋づる式。
ボスを道案内に、次々と子分たちの家庭訪問を実施したというわけだ。
日曜日、先週と同じ場所に釣りに行った。恐る恐る竿を出して、しばらく経つと、
後ろに人の気配がした。振り向くと、土手の上に例の五人がいた。
またやられる!自転車は土手の上。もう逃げられない。
五人が土手を下りて、こっちに歩いてくる。来るんじゃなかった・・・
そう観念して釣竿を置いた私の前にボスが立った。そして言った。
「ごめんなさい」
「・・・」
ボスが頭を下げると、子分の四人も同じように頭を下げた。
彼らの顔は、私と同じように青あざだらけだった。特にボスの顔はひどかった。
先週見たときと比べ、ボスの顔は1.5倍ぐらいに腫れあがって・・・
半沢直樹の「倍返しだ!」を観ていたら、昔の、こんなことを思い出した。
「Lodi」
ジョン・フォガティの作品。1969年にCCRがヒットさせました。
この、エミルー・ハリスもカッコ良く唄っています。
2013.9.17