大学1年の夏、帰省すると、高校時代の仲間にキャンプに誘われた。
総勢8人で猪苗代湖の湖畔にテントを張ると、あとは自由行動。
泳ぐ者あり、ボートに乗る者あり、それぞれが・・・
とてもいい天気だった。岸辺の木陰で横になっていると、後ろが騒がしい。
見ると、松林の中に小さな舞台が組み上げられ、ドラムやギターアンプなどが
セットされていく。どうやら、どこかのバンドが演奏するようだ。
背の高い男が、このバンドのリーダーのようだ。暇なので、近寄って訊いた。
すると、彼らは地元のエレキバンドで、この後、ここで演奏会を開くと言う。
ところが、このリーダーなぜか元気がない。
「どうしたの?」
「参りました。急にドラムが来れなくなって」
「俺もバンドをやっていてるから、困るのはわかる」
「えっ、それじゃドラムできますか?」
「もちろん、できるよ」
よせばいいのに、思わず叩けると言ってしまった。
すると、リーダーは、私に叩いて欲しいと・・・
仕方なくドラムの前に座ったものの、急に不安になった。
それまで誰もいなかったステージの前に、エレキの音を聞きつけて
観客が集まり始めている。これはまずい・・・
よく考えてみれば、私は、人前でドラムを叩くような腕前ではないし、
ドラムは、誰もいないBig Riverの部室で、時々遊んでいた程度なのだ。
それも入学してからだから、僅か数ヶ月のこと・・・
あー、出来るなんて言わなければ良かった。
リハが始まり、リーダーがギターを弾き出した。ベンチャーズだ。
曲も知っているし、これなら何とかいけそうだ。
必死で叩いて、どうにかこうにか1曲目が終わった。
ところが、次の曲のテンポがやたら速い。私のドラムが次第に遅れだす。
「やっぱり、やめるわ」
「いまさらダメです!」
「それなら、ゆっくり弾いてね」
観客に、ゲストだと紹介された。もう逃げ出せない。本番が始まった。
回転の遅いレコードという感じのベンチャーズだったが、それでも、
鍛えていない腕が硬直してケイレンする。
それだけではない。サンダル履きでバスドラムのペダルを踏んでいたら
足が痛くなった。私のドラムが遅れる・・・みんなが私をにらむ。
まさに悪戦苦闘、やっと演奏が終わった。ちょっと盛り上がりに欠けた
きらいはあったが、大きなミスを起こさないで済んだ。それは、私が
逃げ出さないようにと、リーダーがゆったり弾いてくれたからだ。
ホッとして上を見ると、松の木に照明の準備がしてある。
えっ、ひょっとして夜も演奏?これはまずい!
私は、リーダーに見つからないよう、その場からそっと逃げ出した。
手元に、その時仲間が撮った1枚の写真がある。
うまい具合に、写真からは音は出てこない。
だから、颯爽とドラムを叩いているように見えるのだが・・・
キャンプ編、次回に続く。
「Waltz of The Angel」
1956年、ウィン・スチュワートの初ヒットです。
ウィンは、バック・オーエンスに大きな影響を与えました。
2013.10.13