音源が、まだレコードだった時代。おそらく、我が国のレコード会社の商売上の
理由だったと思うが、とくに邦盤カントリーLPには「オムニバス」が多かった。
オムニバス(omnibus)とは乗合馬車。1枚のレコードの中は、いろいろな歌手の
唄がごった煮で入っていた。
聴きたい曲があるので、それを購入したり、仲間から借りたりする。なので、最初の
うちは、そのお目当て曲だけに何回も針を落とす。ところが、曲間の狭い溝に、狙い
を定めるのがだんだん面倒になり、そのうちに、LPを丸ごとかけるようになる。
すると、始めは聴く気がなかった歌手の唄も耳に入る。そうやって、繰り返し何度も
聴くうちに、そういった歌手や曲の中にも、新しい発見があったりする。
今と比べると、圧倒的に情報量の少ない時代だった。オムニバスレコードによって、
自分の、カントリー音楽の領域が次第に拡がった。
今は、Uチューブという便利なものがある。聴きたい曲や、バンド関係で必要な歌が
あれば、クリックひとつで、すぐに目当ての曲に行きつく。
このUチューブの功績は大きく、今は、昔とは比べ物にならないぐらい、数多くの
カントリーソングを聴くことが可能になった。
だが、Uチューブで一度聴いてみたけど、なんとなく・・・とか、どうも、とっつき
にくい・・・など。もし、こんな曲があれば、普通は、それをあえて何度も繰り返し
聴くことはしないだろう。
そうなると、自分のこれまでの嗜好とは違う隠れた名曲とか、または、繰り返し聴く
ことによって良さが判る、スルメのような味わいの歌などに出遭える確率は、
昔と比べ、ぐんと低くなっているのかもしれない。
昔のオムニバスはこんな感じだった。乗客12人の乗合馬車から、ストンウォール
ジャクソンの≪A Wound Time Can't Eras≫が流れてきたかと思えば、同じ
馬車から、カール・スミスの≪I Overlooked An Orchid≫も聴こえてくる。
別の乗合馬車の最後部席には、紅一点、ワンダ・ジャクソンが乗っていた。
始めは、何だ、ロカビリーかと思った。ところが、彼女が「♪The snow fall
around my window・・・」と、ハンク作の≪Weary Blues≫を物憂げに
口ずさむ・・・瞬時に、その唄に惹きこまれた。
「I Overlooked And Orchid」
話の流れからいけば、ここはワンダ・ジャクソンの「Weary Blues」と
いきたいところ。ところが、音質の良い音源が見つからない。そこで、
カール・スミスのこの曲を。いい感じで唄っています。
2014.3.22