だいぶ前のこと。入間川の近くにある小さな野池で釣りをしていた。
並んで座ったのが、その池の定連へら師。その彼が、埼玉の嵐山に、よく釣れる
野池があると言う。聞くと、なかなか良さそうな池だ。よし、場所を教わって
今度釣行してみよう。
「嵐山のどのあたりですか?」
「千手観音をご存じですか?」
「知っています」
「そこの、しだれ桜が実にきれいでして」
「あぁ、そうなんですか・・・そのどこに池が?」
「しだれ桜は境内にありましてね。それはそれは、きれいですよ」
「ですから!どこに池があるんです?」
話が、まるでかみ合わない。どんな質問をしても、返ってくる答えはしだれ桜だ。
話をしているとイライラしてくる。もう訊くのはよそう。千手観音に着いてみれば、
目指す池はわかるだろう。私は、自分の釣りに集中することにした。
すると、私に代わってパッツィーが質問者になった。
「そこに駐車場はありますか?」
「奥さんも、是非、しだれ桜を見てください」
「ハイ見ます。それで、車を停めるところは?」
「うちの家内に見せましたら、感動していました」
「そうですか。ところで駐車は出来ますか?」
「ちょうど、今が見ごろです」
「・・・」
ついに、パッツィーも諦め、自分の釣りに戻った。
それにしても、凄いオジサンがいたものだ。まるで人の話を聞いていない・・・
桜が満開になった。今夜あたりから、桜の名所は花見客で賑わうことだろう。
桜の時期になると、この時のトンチンカンな会話を思い出して、二人で大笑いする。
えっ、彼の言っていた池ですか?確かにその池はありました。
場所ですか?千手観音の下に道路があって、その下が池でした。ええ、釣れました。
しだれ桜ですか?見に行きませんでした。
「Seasons of My Heart」
ジョージ・ジョーンズの自作。
1963年のアルバム「I Wish Tonight Would Never End」の中に。
味わい深い曲です!
2014.3.31