かつて息子が所属した高校野球部は、静岡で合宿を行うのが恒例だった。
目標は甲子園! ハードな真夏の練習の合間、最後の大会へ向けて近隣の
強豪高校と練習試合を積み重ねる。パッツィーと私は応援のため静岡県の
田舎道を走っていた。
途中、田園風景の中に流れる小川があった。橋げたに「かのかわ」の表示
がある。そうだったのか。この小川が、唱歌<故郷>の歌詞に登場する
「♪小鮒釣りし かの川」だ。その時、私もパッツィーもそう確信した。
それからしばらくは、あの小川が、唄に詠まれた有名な「かの川」だと思い
込んでいた。それほど、風景と<故郷>の歌詞イメージがピッタリと合って
いたからだ。ところが、だいぶ経ってから、それはまったくの間違いである
ことがわかった。
一 兎追いし か(彼)の山 小鮒釣りし か(彼)の川
夢は今も巡りて 忘れがたき故郷(ふるさと)
二 如何にいます父母 恙(つつが)なしや ともがき(友垣)
雨に風につけても 想い出ずる 故郷
三 志をはたして いつの日にか 帰らん
山は青き故郷 水は清き故郷
この歌詞にある「かの川」とは、特定の川の名前を指すのではなく、一般的に
いうところの「あの川」のことだった。よくよく考えてみれば、一番の歌詞
「かの川」の前に「かの山」というのもある。そそっかしいのが家風なのだ。
ところで、この曲は「唱歌」ではあるが「童謡」ではないようだ。唱歌という
のは、明治初期から第二次大戦まで学校教育用として作られた文部省唱歌。
これに対し、童謡というのは、大正から昭和初期にかけて北原白秋、野口雨情、
西条八十らが文部省唱歌を批判して作った子供の唄を指すらしい。
こう聞くと、どちらかというと童謡のほうに肩を持ちたくなるのが人情だ。
だが、一概に、そうとばかりは言えないのが「歌」というもの。
お上からの命令だったとはいえ、作詞の「高野辰之」と作曲の「岡野貞一」の
二人は「故郷」という不滅の名曲を世に送り出した。
終戦後ソ連によってシベリアに抑留された日本兵は、この<故郷>という歌に
滂沱(ぼうだ)の涙を流したという。また、大震災などの被災地では、励ましと
復興を願って、必ずと言っていいほどこの歌が唄われる。
どこにでもある里山の風景を描いた、この<故郷>という唱歌。
シンプルで短い三拍子。誰もが心を揺さぶられるのは、この歌に力があるから
だと思う。
≪Walkin' Back ライブの告知です≫
場所 笹塚「リバティベル」
日時 6月10日(水) 19時半演奏スタート
よろしくお願いいたします。
「故郷ーふるさと」
文部省唱歌。
思わず映像に見とれてしまいます。
2015.6.6