少し前の夕刊に「養老孟司」のインタビュー記事が連載されていた。
医学博士の養老さんは、東大教授などを歴任するかたわら、数多くの本を出版
しているが、2003年の「バカの壁」は400万部を超え、戦後日本の歴代ベスト
セラー4位になった。
新潮社の宣伝コピーから引用すると、<「話せばわかる」なんて大ウソ>。
Wikiでは、本の内容をこうまとめている。<「人間が理解しあうということは
根本的には不可能である。理解できない相手を、人は互いにバカだと思う」と
いうのが本書の要点である>
詳しくは覚えていないが、養老さんは、学生と接触しているうちに「バカ」の
存在に気が付き、その「バカ」を何種類かに分類していた。その分類の一つに、
「言っていることが、最初と最後とでは違ってくる人」があった。
すぐにEちゃんの顔が浮かんだ。Eちゃんとは、私とパッツィーの共通の知人で
温厚でいつもニコニコしている。人柄としては申し分のない男だが、困ったこと
に話が長い。
立ち話だった。雑談の途中、何かを思い出したらしいEちゃんは、突如「自説」
を展開しだした。いつもに増して弁舌はなめらか、得意げに鼻の穴を大きく広げ
たEちゃんは絶好調だった。
「あのさー、俺はこう思うんだ。これってやっぱり・・・」
「ウンウン・・・」
またまた長い話になってしまった。それでも、私とパッツィーは適当に相槌を打ち
ながら、彼のとりとめのない話を聴いていた。ところがEちゃん、突然話を止め、
さかんに首をひねりだした。
「どうしたの?」
「俺って、何を話していましたっけ?」
「?」
「しゃべっていたことを忘れちゃった!」
「嘘だろう・・・」
パッツィーは我慢しきれず笑いだした。すると、さすがに照れくさくなったのか
本人も笑いだした。それからは、三人で腹を抱えて笑いに笑った。
Eちゃんを取り巻く「壁」はアイガー北壁よりも高いと思った。
「Try a Little Kindness」
グレン・キャンベル
1969年にカントリーチャートで1位。
Hot 100 でも23位になりました。
2015.10.17